6月19日土曜日、札幌交響楽団(札響)の第638回定期演奏会に行ってきました。
下の子が今年小学校に上がったので、もうコンサートに連れて行っても大丈夫だろうと思って、今年の春から親子4人での札響の演奏会を家族イベントとしています。
これまでも子供向けのものには連れて行ったりはしていたのですが、本格的な演奏会には今年になってから行き始めました。
「コロナ禍で頑張っている札響を応援したい」というささやかな気持もあって始めた、家族イベントとしての演奏会鑑賞。その鑑賞記をお伝えすることで、少しでも札響に関心を持ってくれる方が増えてくれるとうれしいです。
前半の演目 シューマンの愛のピアノコンチェルト
昨日6月19日の第638回定期演奏会は、北海道の「緊急事態宣言」が翌日解除されるというタイミングで開催されました。
指揮を取るのは、若きプリンス川瀬 賢太郎さん。
スリムな体を駆使して、オーソドックスですがしなやかかつ颯爽とした指揮スタイルはすごくカッコよくて絵になります。
前半の演目はシューマンのピアノ協奏曲。
若き修行の日に、ピアノの師の娘であり後に妻となるピアニスト クララ・シューマンに募る愛の想いをこめて着想したまさに愛のピアノコンチェルトです。
この愛のビアノを奏でるのが、弱冠22歳の藤田 真央さん。
女性かなとも間違えそうなお名前ですが男性で、10代から世界的なコンクールで優勝するなど早くから注目を集めている日本が誇る新星です。
お名前そのもののようなやわらかい立ち振る舞いと繊細で瑞々しい演奏はとても印象的。
シューマンがクララに寄せる愛を繊細なタッチで奏で切りました。
後半の演目 マーラーの描く「天上の世界」
後半はボクの大好きなマーラー。交響曲第4番です。
マーラーの交響曲と言えば、巨大な規模の楽器編成で長大なスケールのものというイメージですが、この4番は珍しく比較的普通の規模(それでも大きい方ですが)の楽器編成で、演奏時間も1時間に満たないマーラーにしては短いものです。
1番と並んでマーラーファンでなくとも馴染みやすい一曲だと思います。
曲調もマーラーにしては単純で一見明朗に感じる曲ですが、その深層にはやはりマーラーらしい屈折した着想があり、ある程度背景を知ったうえで改めてよく聞くと、明るくわかりやすい曲調がそれまでの音楽やそれらに慣れ親しんだ耳を小ばかにしているようにも聞こえます。
それを気付かせてくれたのが、第4楽章で挿入されている歌曲です。
メゾソプラノのソロで一見美しく柔らかに歌われるのですが、これが天の上の生活をパロディにしたような皮肉いっぱいの歌詞なんです。
例えば全5節のうち第2節はこんな感じです。
ヨハネ様は 仔羊を放し
マーラー交響曲第4番第4楽章「子供の魔法の角笛」より「天上の楽しい生活」(広瀬 大介 訳)
肉屋のヘロデは 虎視眈々
われらはこの慈悲深き穢れなきかわいい仔羊を 死へと追いやるのだ
ルカ様は 少しもためらわず 雄牛を屠る
天の酒蔵にある酒は びた一文もかからない
パンを焼くのは 天使たち
”ヨハネ様”とは新約聖書に登場する「バプテスマのヨハネ」のこと。
そのヨハネが放す”仔羊”は当然「イエス・キリスト」です。
そのキリストの降誕を恐れてユダヤ人の男の子の赤ん坊を大量虐殺したヘロデ大王がイエスを殺そうと虎視眈々と狙い、人民はこぞってこの”仔羊”を死へと追いやり食卓に乗せてしまう。
福音書を記した”ルカ”が牛を殺し、天使たちが焼いたパンが飛び交い、金も払わずにワインを飲みまくる…。
そんな皮肉に満ちた世界が「天上の楽しい生活」として描かれているのです。
こんな屈折した世界を描いた交響曲第4番ですが、若きプリンス 川瀬 賢太郎さんが颯爽と指揮を執ると本当に美しい世界に見えてきます。
でもそのギャップが実は恐ろしい現実世界の真実を表現しているのかもしれない…なんて考えると、若い川瀬さんの底知れないすごさを垣間見たような気もしました。
会場のコロナ対策と次回の札響定期公演
さて、最後にコロナ禍でも頑張って継続されている定期演奏会ですから、当然安全対策等もしっかりと講じています。
ただ一つだけ気になったのが座席のアロケーション。
混雑を防止するために入場人数は制限しているのですが、1席ずつ間隔を空けるとか座席の間隔を空けるルールは特にないようです。
会場を見渡すと、ほとんど人のいないエリアがあるかと思うと、ほとんど前後左右ぎっしり満席になっているエリアもあります。
会場全体の人数を減らしても、特定のエリアに人を集めてしまっては、入場制限効果はありません。
予約時にもっと座席間隔が空くような配席を工夫してほしいと望みます。
今年の札響定期演奏会の前半シーズン最後は7月10日(土)、11日(日)。
現在日本で最高の指揮者の一人、尾高 忠明さんの指揮で4曲が予定されています。
幅広いジャンルで活躍する人気ピアニストの小曾根 真さんをゲストに、ボクの大好きなラフマニノフのビアノ協奏曲第2番も演奏されるのでとっても楽しみです。
また7月23日からは札幌が世界に誇る「パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)」がコロナを乗り越えて2年ぶりに開催されます。
是非PMFにも足を運んでいただき、応援していただければうれしいです。
では、最後までお読みいただきありがとうございました!
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