コロナが暴露 強力な中央集権国家日本における地方自治の不都合な真実

コロナ
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東京オリンピックの日本人選手の金メダルラッシュに国中が沸き立つこの夏、再びコロナの猛威が列島を襲い、ここ北海道でも8月2日から31日までまん延防止等重点措置が適用されることとなった。

適用の是非については、人によって置かれている状況や深刻さが様々で、当然考え方も異なってくるであろう繊細な問題なので、筆者ごときが論ずることは適当でないと考える。

しかし、ここに至るまでの国(政府)と自治体のあまりにもギクシャクしたやり取りには、筆者自身も地方行政に長く関わってきた立場でもあり、いささか憤りを禁じ得ない。

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再び繰り広げられたバトル ~ 歪んだ中央集権制度の限界

7月21日、北海道鈴木知事は政府に対しまん延防止等重点措置の適用を要請。
この要請に何ら反応を示さない政府に対し、知事は26日にも再度要請。

こういった再三の道からの要請に対し、菅総理は「まず酒類の提供(の規制)といったやるべきことをしっかりやってほしい」と述べ、適用に慎重な姿勢を示した。

この首相の言葉に憤慨したのが、秋元札幌市長。
「国が(自治体に)独自策の財政措置をしない中、地元に『これをやれ』というより、国がやるべきことをやってほしい」と首相のコメントを批判した。

市長の憤りはもっともだ。
首相が自治体に「しっかり規制しろ」といっても自治体にはその財源はほとんどない
財源を独占しているのは、①税源をほぼ独占し再配分権限②国債発行権を有する政府だ。
財源を持たない自治体がろくな手当もしないで私権を制限したら大変なことになる。暴動になりかねない。

これだけでも政府と地方の行き違いを象徴するには十分だが、さらにこの市長の発言に加藤官房長官がわざわざご丁寧に反論。
「誰がやるやらないって話ではなく、国、市町村、県が一体で連携してやっていくことが必要」という、当たり前過ぎてほとんど中身のない観念論を述べた。

市長は「やるからやれるようにしてくれ!」と具体的な対応を求めている。
これに対し「みんなで頑張るのが大事だ」などと子ども向けの訓示みたいなこと言っても事態は改善なんかしないのは誰でもわかるし、地域が求めているのはそんなきれいごとじゃない。
なんでわざわざ地域を現場を逆なでするようなことを上から目線で敢えて言わなくちゃならないのか?
政府も苦しいのはわかる。財源だって厳しいのもわかる。
だからって、むきになって自分たちを正当化しようとしても事態と地域との関係を悪化させるだけであって、丁寧な説明と議論を通じて納得を取り付ける必要がある。

5月の緊急事態宣言の際もそうだった。
札幌市長、北海道知事の苦渋で決断した「札幌市への」緊急事態措置の要請を、政府が一旦は一蹴。
それを専門家会議の批判を受けて態度を一転。
結局「北海道全域への」緊急事態を宣言した。

この時のドタバタについては、本ブログでも当時取り上げたので、ご関心ある方は下記からご照覧下さい。

コロナ対策の措置は都道府県単位である必要はない

さて、北海道に対する緊急事態やまん延防止を巡るやり取りは、何故こうもドタバタと行き違いが起こるのか?

一つには、先にも述べたように中央政府に権限と財源が集中し過ぎ、地方が自治するなんていうことは現実的には困難で、日本の地方自治は実質破綻していることが根本としてある。
このことは北海道や札幌市のみならず、日本全国の自治体において該当する。
全国の知事と政府とのコロナ対策を巡るやり取りをみたても論を待たないだろう。

これに加えて北海道に特有なのがその面積の広さだ

北海道は国土の約22%を占める広大な自治体で、東北6県と新潟県を合わせたくらいの面積がある
そもそも一つの「県」として扱うこと自体に物理的に無理がある。
このために、北海道はいつもいろいろな不都合に甘んじてきた。

函館と釧路は600km以上、東京と神戸よりも離れている。
札幌の感染が釧路や稚内に広がるリスクは、東京の感染が隣県の神奈川や千葉に広がるリスクとは比べ物にならない。

なのに政府はコロナ対策を都道府県単位で行うことに固執し続けている。

緊急事態措置とまん延防止等重点措置の根拠法である「新型インフルエンザ等対策特別措置法」で、これらの措置に関して掲げなくてはならない事項は次のように規定されている。

< まん延防止等重点措置 (第31条の4)>
  1 新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施すべき期間
  2 新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施すべき区域
  3 当該事態の概要

<緊急事態措置(第32条)>
  1 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき期間
  2 新型インフルエンザ等緊急事態措置を実施すべき区域
  3 新型インフルエンザ等緊急事態の概要

いずれも決めなくてはならないことは一緒だが、1と3に関しては法に縛りが示されているのに対し、2の「区域」に関しては特に何の規定もない

つまり、適用エリアを都道府県単位とせず市町村単位等にすることに何の違法性も不当性もない

だから、5月の緊急事態措置の際も、大都市で感染拡大がその他道内とは別段階にある札幌に限定して要請するよう、市長が知事に求め、知事もそれを受け入れて政府に要請した。
今回も、札幌の状況悪化が先行する中で、市長は札幌へのまん延防止措置を早くから求め続けたものの、北海道全体での措置に国が固執し続けるため、札幌の状況が宙に浮き続ける結果となった。

つまり法的には何ら問題がないにもかかわらず、政府は北海道の広域性という特性よりも、都道府県一律横並びというこれまでの習慣に固執して機動的な対応を怠り、事態をいたずらに混乱させたと受け止めざるを得ない。

それとも単なる前例踏襲への固執なんかではなく、浅学菲才な筆者などにはわかり得ない合理的な理由があってのことなのだろうか。
であれば聞いてみたいものだし、知事や市長にはもちろん、地域住民にもきちんとわかりやすく説明すべきであろう。

秋元札幌市長の憤りは極めて真っ当な言い分であり、国との力関係から地方はなかなか言いたいことを言えない中で、勇気ある姿勢であったと評価したい

北海道は県じゃない! 戦後のどさくさで場当たり的に決まった都道府県制

そもそもどうして北海道だけがほかの都府県と違って不都合なくらい広いのか?

もともと「道」とは「県」より広域の概念であって、「東海道」とか「山陽道」という昔からの呼び名と同等のものである。

現在の「府県」は、ご存じのとおり明治維新の際に「廃藩置県」で基本的に藩から転換されたもの。

一方北海道は、開拓や資源供給を目的として中央政府の機関として設置されたもので、戦前まで「府県制」の適用対象外であった
戦前の北海道庁は中央政府機関であったのだ。

それが戦後、GHQから「地方自治」体制構築を強力に求められた結果、きちんとした議論もせずに中央政府の機関をそのまま地方自治体として置き換えてしまったのが今の北海道である

これは全く日本側の私どもの案である。別個の仕組みでは面倒であるから府県と同じようなものは府県並みにした。GHQからいろいろうるさいことを言ってこないうちに、できるだけ早く改正案を固めた。

「回想・地方自治50年」 鈴木俊一氏(元内務省)

憲法や地方自治法の作成に関わった方ご自身が後日そう回想するほどに、極めて場当たり的、刹那的に北海道という行政区分をこしらえてしまったのです。

そうして、地勢的な不都合の調整を常に余儀なくされ、面積の割に知事が少ないという政治的な不利益も甘受しなくてはならないという、戦後北海道の地方自治の歴史がスタートしたのである。

建前だけの地方自治の歪みと限界

少し長くなったので、これ以上、地方自治の本来あるべき姿や行政体としての北海道に関する持論を展開するのは控えたいと思うが、コロナが現在の建前だけの地方自治の歪みをはっきりと浮き彫りにしたことだけは最後に改めて強調しておきたい。

よく、ワクチン開発による医薬関連のイノベーションやリモートなどデジタル化の急速な進展などを評して「通常10年掛かる変化をコロナが1年で実現させた」などどいわれるが、明治以来の強力な中央集権体制と地方自治についても変化が加速することを期待する。

「地方分権」や「地域主権」、「地方創生」など時代によって様々な呼び名で必要性が叫ばれてきた地方自治だが、こういう上辺だけのきれいごとから卒業し、根本的な骨太の議論が避けられない段階に来ていること、そうしていかなければ少なくとも北海道はもう持たないのではという危機感を、コロナを通じた大きな教訓としたい

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