秋の三連休。家族と訪れた旅先で、一冊の小説を読み終えた。
吉田修一さんのデビュー30周年記念作品、『タイム・アフター・タイム』。
物語の中で流れた20年余りの歳月と、旅先でゆったりと過ごす自分自身の時間とが、どこかで重なり合うような読書体験だった。
高校の同級生だった久遠とオッソーが、20年を超える時を経て再会する。
共に担当するプロジェクトの危機と、それぞれの家庭が抱える不協和音。
東京、長崎、そして眩しく煌めく沖縄を舞台に、18歳の夏と今とを行き来しながら、物語は展開していく。

章ごとに語り部となるのは、二人と、その周りの人々。それぞれの視点から語られることで、同じ出来事にも違った表情が見えてくる。誰もが飾らない素顔をのぞかせ、その思いが重なり合っていく構成も面白い。
個人的には、二人が駆け落ちのように過ごした沖縄の離島での生活を描く章がグッとくる。
そこで出会ったボクシングの元世界チャンピオン「チャンプ」の目を通して描かれる、眩しくも儚い時間。
人間味あふれる彼の視点だからこそ、余計に切ないのだ。
ページをめくるたび、胸の奥がそっと締め付けられるような思いが、少しずつ募ってくる。
物語の世界に引き寄せられ、読む手が止まらない。
そして、あの夏から20年余りの時を経た沖縄で、物語はクライマックスを迎える……。
まっすぐな思いを抱き、二度と戻らない18歳の夏を全力で駆け抜けた久遠。
短くもまぶしかった沖縄での暮らし。
> 「私が選んだ人生、どうだったのかな?」
若き日にお世話になった「チャンプ」に、懸命に自らの時を紡いできた久遠がそう問いかける。
18歳の少女が、20年余りの歳月を経て、自らの人生を振り返る。
その間に流れた時間が、静かに胸に迫ってくる。
紅葉も終わりに近づいたリゾートで、家族と過ごす二泊三日。
まったりと流れていくこの時間も、かけがえのないボクの人生の一部。
そんな休日にページをめくり、自分自身が積み重ねてきた時間とも重ね合わせながら、この物語を味わった。
人生には、取り戻せない時間も、やり直せない選択もある。
それでも、あのときの思いまで失われるわけではない。
読み終えた心に残ったのは、うまく言葉にできないけれど、何か「きれいな」ものに触れたような感覚だった。
「純粋物語」
その言葉が、しっくりくる。
吉田修一作品の中でも、忘れがたい一冊。
旅先でともに過ごしたこの物語が、家族との休日を、いっそう忘れがたいものにしてくれた。
露天風呂 羽の影よぎる いわし雲


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